2006年12月28日

博士の愛した数式

久々の文芸評。小川洋子の「博士の愛した数式」 現在映画化されている。


流行りモノには少々懐疑的なのだが、この作品はタダで読めたので読んでみた。素直に面白いと感じた。読了した後、爽やかな余韻に浸れる。↓は背表紙からの引用である。

「僕の記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた−記憶力を失った博士にとって、私は常に『新しい』家政婦。博士は『初対面』の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。


若いシングルマザーの家政婦と、その小学生の息子、そして脳に障害を負ったかつての天才数学者との、心の交流の物語である。世間的には『弱者』に分類される3人が、互いのことを思いやる姿が美しい。特に、博士が彼女の幼い息子、ルートに寄せる庇護と愛情、そしてそれに感動する家政婦の姿に、胸を締め付けられた。何故ならルートは、父親に捨てられ、誰にも歓迎されずに生まれてきた子どもだったので、父性愛というものを知らなかったのだ。


去年、BBCのドキュメンタリーで、記憶が7分しかもたない英国人男性の実話を見た。そういう障害はこの世に実在するらしい。しかもその男性、発病前はオーケストラの一流指揮者だった。才能のある人間が、日常生活に支障をきたす病におかされ、第一線から退くというのは、博士のケースも含め、凡人の発病以上に哀れなことである。発病前の彼は、若くてきれいな妻を伴い、はつらつとしていたのに、発病後の彼はボケ老人のような風体に変わっていた。妻も彼の下を離れていった。

もしかしたら作者の小川さん、この英国人男性の話をヒントにこの物語を書いたのではないかと思った。





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posted by 館主 at 10:33| 読む/文芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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